海底深海の水 海洋深層水とは?飲めるの?ミネラルウォーターとの違いは?効果は?

飲み水の源泉というと、雨や河川、地下、井戸、ダムなどをイメージすると思いますが、淡水化の技術進歩により海水も濾過することで飲み水にすることができます。

その中でも清浄性、低温安定性、富栄養性といった特徴に注視し、大学や企業、自治体が研究を続けてきた「海洋深層水」が、水産業や農業、美容に役立つとして大きな注目を集めています。

特に、ミネラルの豊富さから健康への有用性に注目が集まっています。

本記事では海洋深層水の特徴や効果、ミネラルウォーターとの違い、安全面や健康面へのメリット、デメリットなど幅広く解説します。

海洋深層水とは?特徴は?

海洋深層水とは「海面から200mを超える深海の海水」です。

海水は海面からおおよそ200mを境に表層水と深層水に区分され、から200mを超える深層水を海洋深層水と言います。

海洋深層水は世界中の海を大循環

深海の海水は、世界中の海底を流れています。海洋大循環といわれます。北極や南極などの極寒の海域では海水が氷結しますが、水分だけが氷り塩分は氷らないため、海水の塩分濃度が高くなります。海水が大量に氷ると、海水濃度の非常に濃い重い海水が大量に発生し、沈み込んでいきます。

この沈み込んだ塩分濃度の濃い海水は海流となり、長い年月をかけてゆっくりと世界中の海底を流れます。この流れが季節風、貿易風などの風、地形変化、潮流等が要因で遮られると上昇(湧昇)し、極寒の海域の表層で冷やされるとまた沈み込みます。

海洋大循環の代表的なモノは、北大西洋のグリーンランド沖で冷やされ沈み込んだ海水が北米・南米大陸に沿って南下し、南極付近で他の深層の海水と合流。さらに巨大な海流となり、ニュージーランド辺りから北へ向かい北太平洋にたどり着きます。ここで深層水は湧昇し、表層の海流となります。

グリーンランドから北太平洋にたどり着くまでにおおよそ2000年かかると言われています。

北太平洋にたどり着いた海水は、その後表層水として、太平洋、インド洋、大西洋へと流れていき、北大西洋にもどり、グリーンランド沖で冷やされまた沈み込む、という循環が海洋では起きていると言われます。

グリーンランド沖で海底に沈んだ深層水が、世界中の海洋を循環し、表層水として戻ってくるまでには約4000年になります。


画像:室戸市 海洋深層水とは?

海洋深層水の特徴

海洋深層水には、

  • 低温安定性
  • 清浄性
  • 富栄養性

といった特徴があると言われます。

・低温安定性

太陽の可視光は90%が海面で反射され、さらに海水で吸収されますので、深い海底には光が届きません。水深200m位で真っ暗と言われます。

このことから深海にある海洋深層水には光が届かず温められることがないため、表層の海水と比べて水温が低く一定に保たれています。一般に水深1,000mを超えると水温は5℃前後で安定しているようです。

また、植物プランクトンが光合成できるのは水深200mまでと言われます。深海では植物プランクトンが増殖せず食物連鎖も起こらず、有機物が分解されて無機化が進んでいる状態になります。
さらに工場や農業、生活廃水などによる汚染もないため、水質も一定しています。

このように年間を通して水温の変動が小さく、水質も非常に安定しています。

・清浄性

植物プランクトンは食物連鎖の起点で、植物プランクトンは光合成により分裂して増えますが、光合成には太陽の光と窒素、リン、ケイ酸などの栄養が必要です。

海洋深層水は、海面から200mを超える深海のため太陽光が届かず、また工場廃水や河川からの農業廃水、生活廃水に汚染されないため光合成に必要な栄養がほとんどないため生物が生息しません。

このように、海洋深層水は生態系の影響を受けず、また産業廃水や農業廃水、生活廃水に汚染されないため、非常にきれいな状態を保っています。

高知県室戸沖の表層水と室戸海洋深層水の分析データでは、海洋深層水の生菌数は、表層水の10分の1から100分の1程度となっています。

画像:高知県 海洋深層水について

・富栄養性

地球ができて以来、海からは膨大な水が蒸発して雨となり、陸地に降り注ぎ、雨は海へ流れ、陸上のさまざまなものを海に流し込んできました。
また、海底火山や熱水噴出孔からも、いろんな物質が海水中に放出されてきました。
その結果、海水にはあらゆる元素が含まれるようになり、生物の生長にも必要な窒素、リン、ケイ酸などの無機栄養塩類を多く含むようになりました。

一方で、海水の表層には太陽光が届くため植物プランクトンは光合成に必要な窒素、リン、ケイ酸などの無機栄養塩類を摂取します。光合成にはミネラルも必要です。
無機栄養塩類はバクテリアによる分解で生成もされますが、光合成で摂取される量の方が多いため無機栄養塩類は少なくなります。

しかし、水深が深くなと太陽光が届かず、植物プランクトンがいなくなり、無機栄養塩類が減らずに増え、ミネラルも摂取されないため、表層水よりも栄養が多く含まれるようになります。

海洋深層水はどこで取水されている?

極寒の海域で沈み込んだ海水は海流となり循環し、季節風、貿易風などの風、地形変化、潮流等が要因で海底より湧き上がり(湧昇)ます。海洋深層水はこの湧昇が起こる海域で取水されます。

しかし、この湧昇が起こる海域面積は全世界の海洋面積の0.1%しかないそうです。世界では、ペルー沖、カリフォルニア沖、南西アフリカ沖等が有名です。

日本周辺の海水の大循環

こうした世界の海洋深層水の大循環とは別に、特定の地域ごとに海水の沈み込みと湧昇による循環があることが分かっています。

特に日本は海に囲まれているため、いくつも湧昇海域があり、北海道八雲町、羅臼町、新潟県佐渡市、富山県入善町、滑川市、神奈川県三浦市、静岡県焼津市、高知県室戸岬沖、沖縄県久米島などが有名です。
日本国内の取水施設のある地域:海洋深層水研究会 日本各地の海洋深層水

なお、海洋深層水取水施設は、コスト面から以下のような立地条件が適しています。
・陸地から急に深くなる海底地形
・取水施設の近郊に海洋深層水利用者が多い都市部がある
・交通インフラが整備されており、都市部へ運びやすい

海洋深層水の取水の仕方、作り方は?

海洋深層水の取水方法には取水設備を陸上に設置する方法(陸上設置型)、海上に設置する方法(洋上設置型)、船上に設置する方法(船上搭載型)があります。
多くの施設が取り入れているのが、海底に取水管を敷設し陸上まで汲み上げる陸上型方式です。

日本国内の海洋深層水取水分水施設:海洋深層水利用学会 海洋深層水取水分水施設

海洋深層水は様々なフィルターや装置を経由して作られます。

海底に施設した取水管から取水ピットまで運ばれ、フィルターを通り深海生物の除去がされ、砂ろ過槽といった装置で海水中の泥やゴミが取り除かれます。
最後に逆浸透膜(RO)装置や電気透析(ED)装置といった淡水化装置で塩を取り除き、紫外線殺菌装置で殺菌し完成します。

海洋深層水は安全?

「清浄性」でも伝えましたが、水深200m以上の海底は、工場廃水などに汚染されず、光合成もなく、生物も生息しないため菌も少なく、非常にきれいな状態です。

また、海水の淡水化には逆浸透膜などを通しますが、表層の海水の淡水化は薬剤処理等多くの前工程を必要としますが、海洋深層水は年に1度くらいのフィルター交換頻度ですむ純度です。

室戸岬にある海洋深層水研究所では、15年間取水管及び関連設備に故障の発生や性能低下やトラブルも無く連続運転でき、さらに前処理なしで逆浸透膜脱塩装置を1年以上連続運 転できたことなど、メンテナンス面からも海洋深層水の清浄性が立証されています(出典:ビタミン80巻2号(2月)2006 海洋深層水産業化への歩み)。

清浄性が確認されていることから、海洋深層水は魚の養殖や農業、調味料、化粧品などにも利用され、これらのことから、海洋深層水は安全なことがうかがわれます。

医薬品や医薬部外品への利用も研究されており、近い将来、医療分野においても海洋深層水を使った薬品が出てくるかもしれません。

海洋深層水は飲み水?飲める?塩分は?

海洋深層水の塩分濃度は約3.5%ですので、そのままでは塩分濃度が高く飲めませんが、深海生物や海水中の泥やゴミを取り除いた後、逆浸透膜装置や電気透析装置などの淡水化装置で塩分を取り除き、紫外線殺菌装置で殺菌することで飲めるようになります。

色んな会社がさまざまな製法で飲用の海洋深層水を販売し、ミネラル配合率などは微妙に異なっていますが、ウォーターサーバーやペットボトルなどで市販されている海洋深層水は、飲み水としての認可を得て販売されているため安心して飲めます。
塩分のしょっぱさを感じることはないようです。

海洋深層水とミネラルウォーターとの違いは?

海洋深層水は「海洋の深い場所(通常、深度200メートル以上)から採取される海水」です。

一方、ミネラルウォーターは「地下水や湧き水、鉱泉水、温泉水、伏流水、鉱水など、地下から湧き出た水を原水とする水」です。

日本農林規格「ミネラルウォーター類の品質表示ガイドライン」ではミネラルウォーターは「特定の水源から採水された地下水を原水とし品質を安定させる目的等のためにミネラル調整、ばっ気、複数の水源から採水したナチュラルミネラルウォーターの混合等が行われているもの」と定義されています。

海洋深層水もミネラルウォーターもミネラルを含んでいますが、ミネラルの量が異なります。

ミネラルウォーターの源水の採水地にもよりますが、一般的に海洋深層水の方がミネラルは豊富です。

特に日本で採水された水を原水とするミネラルウォーターは、日本は急な傾斜地が多い地形から水と岩石の触れる時間が短いことからミネラルが少なくなっています。

海洋深層水が利用されるシーン

深層水の利用は、深層水の冷たさを利用した海洋温度差発電が提唱されたのが始まりといわれています。

その後、深層水の清浄性を利用した魚の養殖、富栄養性を利用した海藻やプランクトンの培養、飲料、しょう油や味噌、お酒などの発酵食品、干物やかまぼこなどの水産加工品に利用され、さらに入浴剤や化粧水、せっけんなど美容系の商品も登場してきています。

現在は、海洋深層水の医療分野における利用の研究、臨床試験も行われ、海洋深層水が内臓などに悪影響がないことや血流や便通改善に効果が期待できることが研究機関から報告されています。

海洋深層水の人体への効果、メリットは?

人体の水分量は年齢とともに減少しますが、成人で50~60%、老人でおおよそ50%といわれ、諸説ありますが1か月前後で入れ替わるといわれます。

そのため日々摂取する水分の質は体調に及ぼす影響が大きく、飲み水を変えることで健康にもいい影響を与えることができます。

海洋深層水の人体への効果、メリットは、個人差ありますが、以下のようなものがあるといろんな研究機関で公表されています。

  • 血流改善、降圧効果
  • 免疫賦活(活発)化
  • 便通改善
  • 肥満傾向の改善
  • 総コレステロール、LDL、中性脂肪の低下
  • アトピー症状の改善
  • 血糖ピーク値の抑制

なお、海洋深層水は医薬品ではありません。血流や便通、アトピーなど上記のような症状を治療する際は、まずは医療機関で受診してください。

医薬品との併用摂取についても安全に使用できる飲料水であると結論している結果もありますが、医師へ相談してください。

もちろんですが、海洋深層水だけに改善効果を期待しないようにしてください。

出典:Deep Ocean Water Research,17(1),17‒22,2016 調製海洋深層水飲用による生体効果

海洋深層水のデメリットは?

一般的に海洋深層水はミネラルが豊富な硬水です。

日本の水道水や国産のミネラルウォーターは全て軟水ですので飲み慣れず、おいしく感じなかったり、マグネシウムが豊富に含まれているため、過剰摂取により内臓に負担がかかったり、下痢をすることがあるため注意が必要です。

市販されている海洋深層水は硬水だけではなく、ミネラルが少なめの軟水や、ある程度ミネラルが含まれた硬水より飲みやすい中硬水もあります。

硬水に慣れていない方は、まずは軟水や中硬水の海洋深層水からはじめ、ミネラルを効率的に摂取したい方は、徐々にミネラル豊富な硬度の高い水に慣れるようにすればいいでしょう。

なお、赤ちゃんは内臓が未発達のため、内臓に負担のかかる硬水はおすすめしません。硬水でミルクや離乳食は作らないようにしてください。

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